ベンチャーキャピタルで資金調達するなら知っておきたい『優先株』について解説
近年、ベンチャーキャピタルは、出資する会社に優先株の発行が用いられるケースが増えています。そのため、起業家であれば、優先株が何かを知り、自身と自社会社にとってどのような意味を持つかを理解しておくが大事になってきます。
今回は、ベンチャーキャピタルで資金調達する際に知っておきたい優先株について解説していきます。
優先株とは?
優先株とは種類株式の一つであり、剰余金の配当または残余財産の分配、あるいは両方について、普通株などのほかの株式よりも優先的に支払う株式です。ちなみに剰余金の配当とは会社が得た利益の一部を株主へ支払ういわゆる配当のことで、残余財産の分配とは会社が倒産や破綻した際に資産を配分することです。
普通株は世の中で一般的に株式と呼ばれているものを指します。この普通株とは別に、株式会社が発行できる、権利の内容が異なる株式が種類株式です。種類株式は会社法によって9つの異なる権利(※)を付与した株式を発行することが可能であり、「剰余金の配当」と「残余財産の分配」もこの9つの中に含まれます。
優先株は通常、普通株式よりも株価が高く設定されます。また優先株には議決権が付加されていない、ほかの株式に転換できないなどの制限を加えることがほとんどです。つまり、優先株式は会社の経営に参加するというより、投資家向けに特化した機能を持つ株式だといえます。また優先株には参加型、非参加型、制限参加型の3つの種類があります。参加型は優先株主に所定の配当を支払った後に配当可能利益が残った場合、さらに普通株式の配当金も支払います。非参加型の場合は、所定の優先株の配当金以上の支払いは発生しません。制限参加型株式は優先株主配当金に加えて普通株の配当金を支払いますが、制限があるものです。
更に累積型と非累積型という2つの種類にも分けられます。累積型は配当金が優先株に定められている金額に達しない場合、不足分は次年度以降に繰り越します。非累積型は不足があっても次年度以降に持ち越しません。
- ①剰余金の配当(会社法第108条1項1号)
- ②残余財産の分配(会社法第108条1項2号)
- ③議決権制限株式(会社法第108条1項3号)
- ④譲渡制限株式(会社法第108条1項4号)
- ⑤取得請求権付株式(会社法第108条1項5号)
- ⑥取得条項付株式(会社法第108条1項6号、会社法第2条19号)
- ⑦全部取得条項付種類株式(会社法第108条1項7号)
- ⑧拒否権付種類株式(会社法第108条1項8号)
- ⑨役員選任権付種類株式(会社法第108条1項9号)
剰余金の配当について、優先(劣後)的に分配を受ける権利を有する株式
会社清算時の残余財産の分配について、優先(劣後)的に分配を受ける権利を有する株式
議決権を行使できる事項について内容の異なる株式
譲渡による取得株式の取得について発行会社の承認を要する株式
株主がその株式について発行会社に取得を請求できる株式
会社が一定の事由が生じたことを条件としてその株式を取得することができる株式
当該種類の株式について、発行会社がその株主総会特別決議で全部を取得することを規定する株式
株主の利益に重大な影響を与えるような重要事項について、その株主の同意を要することを規定する株式
取締役を指名する権利を有する株式
スタートアップにおける優先株による資金調達について
優先株は主にベンチャーキャピタルなどの投資家に対して発行されます。つまり、スタートアップ企業などがベンチャーキャピタルから資金調達しようとすれば、ベンチャーキャピタルに対して優先株を発行することが求められるのが一般的です。ベンチャーキャピタルが優先株を求める主な理由は、出資先の会社が倒産した時に資産を受け取れる残余財産分配の優先権を得るためです。
ベンチャーキャピタルが投資先に求めるのは短期間での爆発的ともいえる成長と、IPOなどのエグジットによってもたらされるリターンです。しかしすべての投資先がIPOに到達することはあり得ず、それでも果敢に市場にチャレンジして短期間の成長拡大を目指すようなマインドを持つ企業を好みます。つまり、ベンチャーキャピタルはもともとハイリスク・ハイリターンな投資を行っているということになります。
そのためベンチャーキャピタルにとっては、潜在的に抱えているリスクを少しでも軽減することが優先事項となります。万一、投資先企業の経営が不振に陥ったとしても、優先株によって最終的に残余財産を得ることで投資資金を回収できる可能性が高くなれば、そのことがダウンサイドリスクに対する有効な対策の一つになるわけです。
優先株のメリット・デメリット
優先株の発行によるメリット・デメリットについて、資金調達を受ける側となる会社側の観点からお伝えします。
メリット
優先株は株価を高く設定できるため、少数の株でもより多くの出資を得られやすくなります。そのため普通株を買う株主を集める場合よりも、効率的な資金調達が可能です。また優先株は議決権が制限されていることがほとんどなため、普通株のように大株主によって経営の自由度が制限されることがありません。資金調達を行いながらも株主の発言権を抑えることができ、経営戦略への介入を回避できます。
さらに、優先株で得た資金を自己資本とすることで、自己資本比率を調整できるのもメリットの一つです。
デメリット
優先株のような種類株式を発行する際は、会社の定款を変更しなければなりません。また、通常の株主総会以外に種類株主総会を開くなどの負担が発生します。
さらにスタートアップ企業の場合、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達を受ける際に、自社にとって不利な条件での優先株発行を強要されるケースもないわけではありません。資金調達できることばかりに目が向いて普通株とあまり変わらない価格を設定するようなことがないよう注意すべきです。議決権についても制限が外され、ベンチャーキャピタルなどによる経営への介入・関与は当然とされることも珍しくありません。
まとめ
冒頭でもお伝えした通り、近年、ベンチャーキャピタルは、出資する会社に優先株の発行が用いられるケースが増えています。但し、まだまだ日本では浸透していない状況ですが、アメリカやヨーロッパでは一般的に行われる投資方法です。
救済イメージが強く、経営が傾いているという判断をされかねません。また、経営に関する制限を設けておかなければ、自分の思い通りの経営がスムーズにできない恐れもあります。優先株式のメリットとデメリットを理解した上で、賢く活用するようにしましょう。そして専門家などに相談を仰ぎ、優先株発行が自社に何をもたらすのかについて確認しておきましょう。