ビジネスの駆け引き:現物出資のメリットとデメリット完全解説
会社を設立する場合、資本金を通常は現金で出資するのが一般的ですが、現金以外でも出資が出来ることをご存知でしょうか?「現物出資」とはお金以外の資産を出資することです。お金で出資した方が簡単ですが、手持ちの現金が不足している場合など、手持ち資産を活用することが出来ます。
今回は、現物出資について、現物出資のメリットデメリットを解説していきます。
会社設立における現物出資
2006(平成18)年5月に施行された改正会社法により、日本では会社設立時の最低資本金制度が廃止されました。これにより、資本金1円でも会社設立が可能となったのです。しかしながら、会社の資本金とは、実質的に設立当初の運転資金となります。
資本金1円で会社の設立はできても、それだけでは運転資金が足りませんから経営は立ち行きません。したがって、会社設立にあたっては、やはり相応の資本金額が必要です。ただし、会社設立にあたって、誰でも潤沢に現金を用意できるとは限らないでしょう。そのような場合に有効な手段として、現金の代わりに「物」を出資と見なす現物出資制度が認められています。
現物出資をする方法
現物出資をするには、「出資者の名前、その財産、その価額、出資者に対して割り当てる設立時発行株式の数」を定款に記載します。また、現物の客観的な評価のため、裁判所が選任した検査役の調査が必要ですが、その分費用と日数がかかります。そのための処置として、以下のいずれかに該当する場合は検査役の調査が不要となります。実際は、検査役の調査が不要な範囲で、現物出資するのが賢明です。
- 市場価格のある有価証券であり、定款に記載された価額(定款の認証の日における最終市場価格)を超えない場合
- 定款に記載の価額が相当であると弁護士、税理士等の証明(不動産はさらに不動産鑑定士の鑑定評価が必要)を受けた場合。
- 現物出資動産の総額が500万円以下の場合。
※この場合は専門家への報酬が別途必要ですので、事前に費用などを確認しておきましょう。
※その際、設立時の取締役等が「現物出資の価額が相当であるという調査報告書」が必要です。いくらするかは、その時の「市場価格」「時価」で評価します。
注意点:不動産の場合は所有権移転登記が必要です。証券や車などの場合も名義変更手続が必要です。
現物出資できる現物の範囲
現物出資できる物は、広範にわたります。通常、考えられる現物は以下のようなものです。
- 動産(OA機器、パソコン、その他機械類、自働車、資産価値のある商品類)
- 有価証券(国債、社債、上場株式など市場価値が明確な物)
- リゾート会員権、ゴルフ会員権など
- 不動産(土地、建物)
- 知的財産権などの無形固定現物(特許権、意匠権、商標権、営業権など)
当然のことですが、現物として会社に出資したからには、その所有権は会社に移転します。つまり、移転登記手続きも必要です。なお、その移転登記手続きなどを考慮すると、単価の低い現物をたくさん出資するのは、手続きが煩雑化するのであまりお勧めできません。
逆に、現物出資の対象とならないものもあります。
- ローン支払い中で未完済の資産
- 名義を書き換えることができない預金や保険証券
- ノウハウや労働など無形のもの
事業においてそのまま継続的に利用可能なものであっても、対象とできない場合があるので注意しましょう。
現物出資のメリット
現金ではなく現物で出資することのメリットは以下になります。
節税効果がある
現物出資を行うメリットとしては、まず現物出資として会社設立時に会社のものとした財産を、減価償却費として経費処理していくことができる点が挙げられます。機械設備などの資産は、固定資産として購入した代金をすべてその時に費用として計上するのではなく、法定耐用年数に応じて数年間で分割して費用として算出します。
そして、製品を作る際にかかった材料代や人件費、光熱費などの費用に、この機械設備の費用も入れて計算していきます。このように資産の購入金額を法定耐用年数で割ることを「減価償却」といいます。減価償却で経費処理ができるということは、経費が加算されるのでその結果として会社の利益が減ることを意味しますが、利益が減ると税金の負担も減ることになりますから、現物出資には節税対策としてのメリットがあることになります。
資本金を増やせる
出資金を用意する時に現金だけでなく、現物でも出資することで出資総額を増やすことができます。額面での出資金と現金とのギャップは必ず考慮しておき、資金繰りの計画を綿密に立てておく必要が額面での出資金と現金とのギャップは必ず考慮しておき、資金繰りの計画を綿密に立てておく必要があります。
資本金額は、金融機関から融資を受ける際の会社評価において、その融資金額を左右する重要な位置づけのものであり、その目標の出資金を現金だけで準備する必要が無いことは、資金調達コストをカットできることから見てもかなりのメリットであるといえます。資本金の金額を設定する際のコントロール幅が増えることで、融資の場合に限らず社会的な信用を得やすくなるという点で、設立まもない会社を軌道に乗せていく上で有利な展開になることも多いでしょう。
備品の調達コストを抑えることができる
事業に必要なものを現物出資という形をとっておけば、それらを取得する際に必要なコストを抑えることができます。自動車、パソコン、OA機器などはその最たるもので、設立時のコスト削減に大いに役立つでしょう。
設立時に限らず増資に利用できる
会社設立時に限らず、会社を経営していく中での増資のための手段として利用することもできます。経営の方向転換や事業規模の変化などで増資を必要とする場面において、調達コストを抑えながら増資を実行できる方法として有効です。
現物出資のデメリット
現物出資には多数のメリットがある一方で、そのデメリットも少なからず存在しています。
資本金額と現金とのギャップ
現物出資した物を換金しない限りは、それは物でしかありません。しかし、現物の時価価額どおりに換金し現金を入手することは、難しいでしょう。つまり、現物は現物のまま活用していくことになります。
このことが意味するのは、資本金額に比して、実際に会社が資金として使える、手元にある現金は少ないということです。会社設立後、運転資金の調達に、すぐ取り掛からなければならない可能性があることは把握しておきましょう。
手続きに手間がかかる
通常の現金での出資と比べた場合、現金出資では発生しないような手続きが、現物出資では多々発生するため、手間は格段に増えます。定款への記載をはじめ作成する書類が増え、そこに現物価額の証明書など外部へ依頼しなければならない書類も加わります。
さらに、会社の所有物にするための所有権移転手続きも必要です。また、手続きの過程で出費が発生したり、税金を払わなければならない場合もあります。無駄な出費とならないように、事前に出費額は確認したうえで、現物出資の判断をすることが肝要です。
現物出資に必要な手続き
現物出資の際は、現金での出資とは違った特定のプロセスを経る必要があります。それぞれの手順と押さえておきたいポイントについて確認していきましょう。
①現物時価の調査
まずは、出資する現物の時価を調べることから始めます。その価額の調査は取締役が行うことになりますが、前述でお知らせした条件に該当する場合は検査役による調査が必要となります。
- 市場価格のある有価証券であり、定款に記載された価額(定款の認証の日における最終市場価格)を超えない場合
- 定款に記載の価額が相当であると弁護士、税理士等の証明(不動産はさらに不動産鑑定士の鑑定評価が必要)を受けた場合。
- 現物出資動産の総額が500万円以下の場合。
これらに該当し、裁判所が選任した検査役による調査を受ける必要があると、数十万円もの検査費用や数か月という日数がコストとして発生します。手持ちの金銭が不足していることから選択されることの多い現物出資であるわけですから、これら3つの条件に適合しないように調整して、取締役による調査を実施できるようにすることが好ましいといえるでしょう。
②定款への記載
次に、現物出資した内容についての詳細を定款に記載する必要があります。記載する内容は以下になります。
- 現物出資する発起人の氏名と住所
- 現物出資する財産の詳細と価額
- 出資者に対して割り与える設立時発行株式の数
特に、出資する現物については、以下の詳細を記載しておく必要があるので、漏れの無いように注意しましょう。
- 商品名
- 製造元の会社名
- 製造番号
- 現物の数
③調査報告書の作成
出資された現物財産の価額が適正であるか、財産の引継ぎが終了しているかなどを取締役が調査し、その結果が妥当であると判明した際は、調査報告書を作成します。監査役が別途設置されている場合は、設立時取締役と設立時監査役で調査と調査報告書作成を実施する必要があります。この調査報告書が、株式会社設立登記申請書への添付書類となります。
④財産引継書の作成
現物出資する発起人は、設立する際に割り当てられる発行株式を引き受け、滞りなく出資現物を会社に納めます。現物が引き渡された際は、財産引継書を作成する必要があります。設立時取締役(監査役が設置している場合は設立時取締役と設立時監査役)の調査報告書に添付する形で、設立登記申請書と共に法務局に提出することになります。
この財産引継書は発起人ごとに作成する必要があるため、複数の発起人がいる場合は人数分それぞれに対して作成することに注意しましょう。
消費税について
現物出資に伴って課税される税金が多数存在しており、特に消費税は注意が必要です。
資産を渡して株式という有価証券を受け取ったという行為は、税務上の扱いとしては資産を売却して金銭を受け取ったことと見なされ、消費税がかかります。出資者が個人事業主で、基準期間の売上が1000万円未満であれば消費税非課税事業者として免除されますが、1000万円を超えていれば消費税が課されることになります。
また、資産を受け取る側の法人も、資本金が1000万円を超えてしまうと、設立から2年間は消費税の非課税事業者として免除される特典が利用できなくなります。資本金をいくらに設定するかは、細心の注意をもって決定する必要があるでしょう。
資本金の金額が1000万円を超えている場合、消費税の免税事業者とはなれないなどのデメリットがありますから、資本金をいくらにするべきか?については最初の売り上げが入ってくるまでどのぐらいの資金が必要かなどを考えながら、慎重に判断する必要があります。尚、中小企業の場合には、運転資金として必要なお金の3ヶ月分程度を、1000万円を超えない範囲で資本金とするケースが多いです。
まとめ
現物出資する財産の価額は、購入価格ではなく、出資する時点での市場価格や時価としなければいけませんので、財産の評価は適正に行う必要があります。ちなみに500万円を超える現物出資の場合、出資した資産の価格調査・証明を弁護士や税理士などの第三者の専門家に任せなければなりませんので、事前に相談しておきましょう。