鍼灸院での開業の資金調達方法
今回は、鍼灸院の開業に必要な費用や資金調達方法、準備など、鍼灸院の開業前に知っておきたい情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも鍼灸院とは?
鍼灸院は、東洋医学の施術法のひとつである鍼灸施術を行なうところです。「はり・きゅう」または、「しんきゅう」と呼ばれ、身体に約360個あると言われるツボに鍼や灸を用いて症状を改善する施術法です。
利用者が来院したら、最初に症状や痛みの具合、部位、経過、原因などについてヒアリングし、触診や脈診、聴診などの検査をします。その後、鍼または灸による施術を行ないます。鍼灸には、鍼灸師それぞれの流儀がありますがツボのなかでも、固い、へこんでいる、湿っているなどの変化のある場所を選んで施術し、自然治癒力や免疫力を高めます。
独立開業ができる医療系の国家資格
独立開業ができる医療系の国家資格には以下があります。
代表的なところでは医師や歯科医師、薬剤師といった資格がありますが、6年間(4,500時間以上)の専門教育を受けて国家試験に合格する必要があるため、これらの資格を取得するのは、非常にハードルが高くなります。
鍼灸師は、同じ医療系国家資格でありながら、3年間以上の専門教育を受けて国家試験に合格すれば取得できるため、他の国家資格に比べ、比較的取得しやすいといえます。
開業する為には
鍼灸師の資格を取得すると、開業する権利が与えられます。条件が整えば開業をすることが可能ですが、その際には様々な規定を満たしたうえで、店舗を置く住所の都道府県知事へ届出をする必要があります。
開業をするための規定としては、例えば鍼灸院の店舗となる建物に構造設備の基準を満たした専用の施術室や待合室があるか、消毒機材や手洗い場などの清潔を保つための設備は整っているか等といった決まりがあります。そういったいくつかの基準を満たしていなければ、鍼灸院を開業することはできません。将来、開業することを考えている方は、あらかじめどのような条件があるのか、必要な手続きは何か等、あらかじめ把握しておくことが望ましいでしょう。
健康保険対象と診療費
鍼(はり)・灸(きゅう)は健康保険の対象となる例は神経痛、腰痛、五十肩、むち打ち、リウマチ、頚腕(けいわん)症候群(首や腕がこり痛む病気)の6つのみになります。医師の診断書か同意書がある場合には、大半は患者の自費診療になることが多く、診療費も一回3,000円から5,000円程度になることから、必ずしも大衆治療の対象とはなっていません。
鍼灸治療院の開業に必要なものとは?
鍼灸院を開業するにはどのようなものが必要なのでしょうか。鍼灸院をオープンする際に必要な主な準備は以下のようなものがあります。
- 構造設備基準を満たす施術室と待合室が作れる物件
- 消毒機材・手洗い場などの清潔を保つための設備
- 施術台・枕やタオルケットなどの備品
- 待合室のイスやスリッパなどの備品
- 受付台・電話・会計に必要な機器
- 鍼を管理するための収納用品
- 一般廃棄物と感染性廃棄物を分別するためのごみ箱
- カーテンやブラインド
- 患者情報を管理するためのパソコンや鍵付きロッカーなど
- 看板
- ホームページ など
施術室と待合室に必要な面積の規定等もあるため、構造設備基準に関するものは、あらかじめ保健所で相談してみることをおすすめします。構造設備基準を満たした店舗を準備できたら、市町村役場へ施設所開設届を提出後、所管する保健所の現地確認調査を受け、認められてはじめて開業することができます。
出張施術としての開業も可能
鍼灸師として独立開業する方法は鍼灸院開設だけではありません。鍼灸師は患者の自宅に訪問して施術した場合も保険診療として認められているため、出張専門の鍼灸師として開業することも可能です。
出張専門の鍼灸師として開業するためには 施術所開設届ではなく、出張業務開始届を提出します。提出先は自宅住所を所管する保健所です。既に施術所を開設したうえで出張業務を始める場合は、届出を出す必要はありません。出張施術を専門に業務を行う場合のみに出張業務開始届が必要になります。
鍼灸院の開業にかかる費用
一般的に鍼灸院を開業するには300万円~600万円程度必要とされていますが、詳細は以下で説明します。
テナント料金
鍼灸院を開業する際に、最大のネックとなるのがテナント料金です。鍼灸の施術を行う場合、ある程度の空間が必要となるため、相応の費用が掛かることとなります。テナント料金は借りる場所の立地やスペースによってさまざまですが、目安としておよそ30万円から300万円が必要となってきます。開業にかかる費用を抑えるために、マンションの一室で開業するという手もあるのですが、通りに面したテナントに比べると、地域の方へのアピール力に欠けることは否定できません。
施術機器、器具
鍼灸院を開業する際には、消毒用の機材や手洗い場など、清潔を保つための設備が必須となります。初期段階では30万円から100万円程度を見込んでおくと良いでしょう。また、鍼を使うという特殊な業態であるため、感染性廃棄物を補完するためのごみ箱も必要となります。その他、待合室に置くための椅子やスリッパ、受け付け台など細々としたものが必要です。
人件費
ある程度、既存の施術院で経験を積んでから開業する場合、馴染みの患者さんがついてきてくれるケースもあります。その数が多くて一人では対応しきれない場合、受付さんやスタッフを雇うこともあるでしょう。その場合、毎月の人件費も考慮に入れる必要があります。午前中だけ受け付けのパートを雇うのであれば、1ケ月あたり5万円~7万円程度で済みますが、施術スタッフも雇うとなれば、生計を立てられる程度の給与を支払う必要があります。
宣伝広告費
宣伝広告費も欠かすことのできない費用の1つです。チラシや折り込み広告にかかる費用はもちろんのこと、看板やチラシスタンドなどの設置にも費用が掛かります。初期投資として考えた場合、50万円から100万円ほど見込んでおく必要があります。
その他
鍼灸院をフランチャイズで開業する場合には、上記以外に加盟金や研修費など本部への支払いが発生します。なかには開業支援に特化し、加盟金やロイヤリティが不要の本部もあり、個人での開業より開業資金を抑えられるケースもあります。
開業後の運転資金も事前に確保しておきましょう
店舗を構え、治療院を開業したからといって、すぐに患者さんが来るわけではありません。また、その患者さんに繰り返し通ってもらえないと売上げを伸ばすことは難しいでしょう。開業後はそのような状況のもと、試行錯誤をしながら、経営や生活を軌道に乗せていかなければなりません。自分の生活を確保していくお金として、運転資金をあらかじめ確保しておくことはとても大切になります。
運転資金の主な費用は、人件費や賃貸料、水道光熱費、広告宣伝費、消耗品費などで、鍼灸院の立地や規模、集客の状況などによって大きく変わります。鍼灸院の経営において最も割合の高い運営資金は人件費で、1ヵ月あたり売上の40~50%程度発生します。従業員の人数や資格保有者かどうかなどによっても変動するので、計画的な採用が必要です。賃貸料は立地や規模にもよりますが、1ヵ月あたり売上の7~10%程度が目安です。自宅や無店舗での開業は、月々の出費を抑えることができます。また、水道光熱費も1ヵ月あたり2%程度発生します。そのほか、開業後の求人や集客を行う際に必要な広告宣伝費が1ヵ月あたり売上の約10%、消耗品の仕入れ費として売上の2%程度かかると考えておきましょう。これらの金額合計×3~6ヵ月分の資金は開業前に確保しておきましょう。
開業資金をどこから調達すればいいのか?
開業するにあたり、自己資金、いわゆる貯金だけで開業できればいいですが、なかなか日々の生活費なども考えると難しい所です。では自己資金以外でどこから調達すればいいのでしょうか?
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、2008年10月1日に、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行の4つの金融機関が統合して発足した100%政府出資の政策金融機関です。全国に支店網があり、固定金利での融資や、長期の返済が可能など、民間の金融機関より有利な融資制度が多く、設立間もない法人やこれから事業を始めようとする人であっても、融資を受けやすいのが特徴です。
一般的な中小企業に関係する事業は、国民生活事業になり、国民生活事業は事業資金の融資がメイン業務で、融資先数は88万先にのぼり、1先あたりの平均融資残高は698万円と小口融資が主体です。融資先の約9割が従業者9人以下であり、約半数が個人企業です。サラリーマンには馴染みではないですが、理由として、銀行のように口座はなく、貸付のみだからになります。
創業者向け融資制度である「新創業融資制度」や認定支援機関の助言があれば無担保・無保証、金利が安価になる「中小企業経営力強化資金」という融資制度がお勧めです。
信用保証付の融資
「信用保証協会」という公的機関に保証人になってもらい、民間の金融機関から融資を受ける制度です。貸倒のリスクを信用保証協会が背負うので、実績のない創業者が民間金融機関から融資を受けることが可能となります。万が一返済が不可能になった場合は、信用保証協会が代わりに金融機関に返済し、その後債務者は、信用保証協会に借入金を返済することになります。信用保証協会は全国各地にあり、地域ごとに創業者向けの融資制度を設けています。また独自の融資制度を設けている自治体も多くあります。
手続きの手順としては、信用保証協会に保証の承諾を受け、金融機関から実際の融資を受けるという流れになります。また各自治体の制度を利用する場合は、自治体の窓口を経由することになります。
親族、友人・知人からの借入
親族・知人から借入をする際には、その人の好意でお金を借りることになります。先々トラブルにならないようにしっかりとした取り決めをおこなっておくことが重要です。いくら近い間柄とは言え、お金を貸す側の心理としては複雑なものです。また、後々トラブルになりやすい資金調達法でもあるため、甘えてしまわないよう入念な説明と借用書などを交わすなど、お互いが納得のいく取り決めをしっかりとしておきましょう。
その他注意点として、金額によっては贈与税を納めなくてはならないので、実施する場合は、贈与とみなされないよう書面(金銭消費貸借契約書)を作成したほうが良いでしょう。また、利息など契約内容も明確にし、返済は銀行口座を通じたり、領収書をもらうなどして、証拠を残したほうが良いでしょう。
まとめ
「はり師」「きゅう師」の国家資格を取得している鍼灸師は、開業をすることが認められています。開業をして成功するためには、施術技術はもちろん、経営的な知識やスキルも必要になってきます。
鍼灸院を開業するには、いくつかのハードルを乗り越える必要がありますが、開業してから軌道に乗せるまでの時間を少しでも短くできるよう、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。